虚血性腸炎
目次
虚血性腸炎とは?
虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)は、大腸への血流が一時的に不足することで起こる大腸の炎症です。
特に血流が届きにくい左側の結腸(下行結腸〜S状結腸)で起こりやすく、突然の腹痛や血便が特徴的な症状です。
日本では高齢化に伴い増加傾向にあり、発症者の約8割が60歳以上の方です。
多くの場合は自然に軽快しますが、まれに腸管の壊死や穿孔をきたし、重症化することもあるため注意が必要です。
虚血性腸炎の原因
腸への血流が一時的に減少することで、腸の粘膜が酸素不足となり炎症を引き起こします。
主な誘因として、以下が知られています。
- 強い便秘やいきみによる腸内圧の上昇
- 脱水や血圧低下
- 動脈硬化、心疾患(心房細動など)
- 透析中の血圧変動
- 薬剤(NSAIDs、血管収縮薬、下剤など)
- 市販薬(特にプソイドエフェドリンやフェニレフリンを含む風邪薬)
虚血性腸炎の分類
虚血性腸炎は、症状の経過や重症度によって大きく3つのタイプに分けられます。
これにより治療方針や予後の見通しが異なります。
一過性型(約65%)
もっとも軽いタイプで、多くは安静にして点滴などの保存的治療だけで自然に回復し、後遺症もほとんど残りません。
狭窄型(約25%)
炎症がおさまったあとに腸が狭くなる(狭窄)ことで、腸の動きが悪くなったり腸閉塞を起こすことがあります。
この場合は手術が必要になることもあります。
壊疽型(約10%)
血流不足が長く続いたために腸の一部が壊死(細胞が死んでしまう)してしまう重症型です。
穿孔といって腸に穴があいたり、腹膜炎やショック状態になることもあり、緊急手術が必要になります。
虚血性腸炎の症状
多くの場合、左下腹部〜下腹部に強い痛みが突然起こります。
鈍い痛みというよりは、キリキリ・シクシクとした刺すような痛みが多く、「いきなりお腹をつかまれたような」感じと表現されることもあります。
排便後に痛みがやや軽減することもあります。
頻回の便意・下痢
炎症を起こした腸が刺激されるため、便意が頻繁に起きる(しぶり腹)、あるいは下痢便になることがあります。
排便後も「まだ出そう」「すっきりしない」といった感覚が残ることもあります。
血便
腸の粘膜が傷つくことで、出血を伴った便が出現します。
鮮血便(赤い血)や暗赤色の粘血便など、形状はさまざまですが、「トイレで水が真っ赤になった」という表現がされることもあります。
発症から数時間~1日以内に血便が出るのが典型的です。
発熱
軽度の発熱(37〜38℃)がみられることがあります。壊疽型や重症型では高熱になることもあります。
悪心・嘔吐
腸の運動異常や腹部の不快感により吐き気を伴う場合があります。
虚血性腸炎の検査・診断
虚血性腸炎の診断は、特徴的な症状とともに、画像検査や内視鏡検査、血液検査を組み合わせて行います。
問診・身体診察
まず問診では、腹痛や血便の出現時期、痛みの部位、便の性状などを詳しくうかがい、直腸診で出血の有無や色調を確認します。
CT検査
画像検査としては、腹部CTが診断に有用とされています。
CTでは腸管の壁が腫れていたり、特徴的なサムプリンティング像(親指で押したような形の陰影)が見られることがあります。
また、腸に穴があいていないか、壊死が起きていないかといった重症度の確認にも役立ちます。
ただし、CTがなくても、問診や診察、血便の性状、腹痛の部位や経過などから、ある程度虚血性腸炎を疑うことは可能です。
必要に応じて、CT検査ができる総合病院への紹介も行いますので、まずはご相談ください。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査は、腸の粘膜を直接観察できる重要な検査で、発症から48時間以内の早い時期での検査が推奨されています。
びらんや紫斑、潰瘍といった虚血性変化を確認し、生検により診断を確定できます。
ただし、腸管に穿孔のリスクがあると判断される場合には、検査は控えます。
血液検査
血液検査では、炎症の程度や全身状態を把握するために、白血球数、CRPなどを確認します。
重症例では代謝性アシドーシスや低アルブミン血症がみられることがあります。
虚血性腸炎の治療
虚血性腸炎の治療は、その重症度によって大きく異なります。
保存的治療
軽症〜中等症の場合は「保存的治療」と呼ばれる方法で対応します。
これは食事を一時的に控え(絶食)、水分をとりながら腸を安静にすることで自然回復を促す治療です。
水分補給としては水だけでなく、塩分や糖分をバランスよく含んだ経口補水液(OS-1など)を使うと体の回復を助けることができます。
多くの方がこの方法で1週間ほどのうちに症状が落ち着きます。
発熱や感染の可能性がある場合には、抗菌薬を使うこともあります。
口から水分が取れない場合は、入院して点滴で治療を行うことがあります。
外科手術
一方で、全体の約15〜20%の方では手術が必要になるケースもあります。
虚血性腸炎に対する手術は、命を救うために非常に重要な処置です。
特に腸に穴があいてしまったり、壊死や重度の出血がある場合は、早急な対応が必要となります。
ただし、手術には体への負担もあるため、患者さんの年齢や体力、持病などの全身状態をよく見ながら、慎重に手術のタイミングを判断することが大切です。
そのため、保存的治療の限界をしっかり見極めたうえで、内科と外科がしっかり連携しながら治療を進めていくことが非常に重要です。
虚血性腸炎の再発と予防
虚血性腸炎は、多くの場合1〜2週間ほどで自然に回復し、後遺症が残ることはほとんどありません。
しかし、一度かかると再発する可能性もあり、5年以内に再発を経験する人は全体の約5〜10%とされています。
特に、便秘を繰り返している方や、高血圧・糖尿病・動脈硬化などの生活習慣病がある方は再発しやすいといわれています。
再発を防ぐためには、日常生活の見直しがとても大切です。
特に、強くいきむことや便秘によって腸にかかる圧力(腸管内圧)が高くなると、再発のリスクが上がるとされています。
そのため、食物繊維の多い野菜や海藻類を意識してとり、腸の動きを整え、スムーズな排便を促すこと、水分もしっかり補うこと、軽い運動を日課にすることが重要です。
そして高血圧や糖尿病で治療中の方は、血圧や血糖の管理をきちんと行うことが、再発予防につながります。
草加西口大腸肛門クリニックでの【虚血性腸炎】の診療
当院では、突然の腹痛や血便といった症状で受診される方が多くいらっしゃいます。
中でも、「トイレで鮮血が出て驚いた」「左下腹が急に痛み出した」といったケースでは、虚血性腸炎の可能性を考えて診療を行います。
まずは丁寧な問診で、症状の始まりや経過、便の状態、既往歴や内服薬などを詳しくお聞きし、腹部の診察や直腸診も併せて行います。
虚血性腸炎が疑われる場合には、症状の重さや全身状態を踏まえて、治療方針を判断します。
比較的軽症の方では、一時的に食事を控え、水分補給をしながら腸を休ませる外来治療が中心となります。
ご自宅での安静と合わせて、症状の経過を慎重に見守ります。
一方で、症状が強い方や全身状態に不安がある場合には、CT検査が可能な総合病院をご紹介し、画像評価や入院による点滴治療が必要かどうかを判断します。
また、虚血性腸炎の背景に大腸がんなどの病気が隠れている場合もあるため、これまでに大腸内視鏡検査を受けたことがない方や、前回の検査から時間が経っている方には、症状が落ち着いた後に大腸内視鏡検査をおすすめしています。
「急にお腹が痛くなって心配」
「トイレで血が出て驚いた」
「大腸がんなどがないか不安」
といった場合は、どうぞ当院へご相談ください。
症状の原因を丁寧に見極め、安心して適切な治療を受けていただけるようサポートいたします。