痔瘻・肛⾨周囲膿瘍
目次
痔瘻・肛門周囲膿瘍とは

肛⾨の少し奥の⻭状線(肛⾨と直腸の境界)には、肛⾨陰窩(こうもんいんか)と呼ばれる⼩さなくぼみが放射状に並んでいて、粘液を分泌する肛⾨腺とつながっています。
肛門腺からの粘液は、適度な湿り気を保ち、便の通りをスムーズにする働きがあります。
このくぼみは小さいので、通常はここに便が入ることはありませんが、下痢などの水っぽい便の場合は、くぼみに便が入り肛門腺が細菌に感染し、炎症を起こすことで、化膿して膿のたまりを作ることがあり、この状態を肛門周囲膿瘍といいます。
肛門周囲膿瘍を繰り返すと、細菌の入り込む穴から膿のたまる部分を通り、さらに皮膚までつながる道ができてしまうことがあり、この状態を痔瘻と呼びます。
つまり、肛門周囲膿瘍は急性期の病態で、痔瘻はその慢性化した状態といえます。
男女ともに発症しますが、特に30~50代の男性に多いのが特徴です。
痔瘻・肛門周囲膿瘍の原因
主な原因は、肛門に存在する肛門腺の感染です。肛門腺は、肛門と直腸の境界付近にあり、腸内細菌がここに侵入すると感染・炎症を起こし、膿瘍(うみのたまり)を形成します。感染が進行すると、皮膚の表面に向かって膿が流れ出し、排膿口ができます。この通路(瘻管)が形成されると痔瘻となります。他には、裂肛から発生する痔瘻や、クローン病などの基礎疾患が原因となることもあります。
これまで肛門周囲膿瘍は必ず痔瘻になると考えられていましたが、最近の報告では、肛門周囲膿瘍の切開排膿(皮膚を切って膿を出す処置)をした後の、痔瘻への移行率は30%程度とされています。
痔瘻・肛門周囲膿瘍の症状
肛門周囲膿瘍の初期症状は、肛門周囲に突然起こる強い痛み・皮膚が赤く腫れて熱感を伴います。炎症や膿のたまりが大きいと38℃近くの発熱を伴うこともあります。深い部分の肛門周囲膿瘍では、肛門の奥の鈍い痛みを感じることもあります。
皮膚が自然に破けて膿が出ると、痛みや腫れが改善します。痔瘻になると、皮膚にあいた穴から持続的に膿が出たり、肛門周囲の腫れと痛みを繰り返したりします。また、慢性的に膿が出ることにより、皮膚のかゆみや下着の汚れなどがおこります。
皮膚の穴は一時的に閉じたようになることもありますが、また膿がたまると腫れて痛みが出現し、自然に破けて膿が出ると症状が改善するというサイクルを繰り返すこともあります。このサイクルが月に何回もある人もいれば数年に1回やそれ以上という人もいて、短いサイクルの場合は生活に支障が生じることが多いため、早めの手術が検討されます。
痔瘻の分類

痔瘻は瘻管の走行により以下のように分類されます。
数字が大きくなるほどより重症な状態と考えられます。
分類 | 瘻管の走行部位 | 割合 |
---|---|---|
皮下痔瘻(IL型) | 皮膚の浅いところ | 約20% |
低位筋間痔瘻(IIL型) | 内外括約筋の間を下にのびる | 約60% |
高位筋間痔瘻(IIH型) | 内外括約筋の間を上にのびる | 約8% |
坐骨直腸嘉痔瘻(III型) | 肛門挙筋の下までのびる | 約10% |
骨盤直腸窩痔瘻(IV型) | 肛門挙筋の上までのびる | 約2% |
痔瘻・肛門周囲膿瘍の検査・診断
まずは、問診を行いこれまでの経過と現在の状況をうかがいます。
その後に、視診(目で見る)で、肛門周囲の腫れや赤み、皮膚の穴の有無などを確認します。
次に、直腸指診で痛みの有無、膿のたまりや炎症の状況、痔瘻の管の有無、その他の病気の有無などを確認します。
肛門鏡(こうもんきょう)

その後に、肛門鏡という専門の器具を使って診察をします。痛みが強い場合などは、無理はせず可能な範囲での診察をいたしますのでご安心ください。
肛門エコー

また、痔瘻や肛門周囲膿瘍の診断には肛門エコーが非常に有用です。膿がどこにどのくらいたまっているのか、痔瘻の管はどこを通っているのかなどの情報を視覚的に確認することができます。
⼤腸内視鏡検査
肛⾨の診察をした際に、炎症性腸疾患の⼀つであるクローン病に特徴的な痔瘻が⾒られる場合もあります。
クローン病が疑わしい場合には、⼤腸の状態を確認するために、後⽇⼤腸内視鏡検査を⾏うこともあります。
痔瘻・肛門周囲膿瘍の治療
肛門周囲膿瘍の治療
肛門周囲膿瘍の治療は、外科的に切開して膿を出すこと(切開排膿)です。
一般的には外来で局所麻酔での治療が可能ですが、膿のたまりが大きい場合や、おしりの深いところに膿がたまっている場合には、腰椎麻酔での治療が必要となるため、本院の「西新井大腸肛門科」での短期間の入院が必要となります。
痔瘻の治療
これに対して、痔瘻はいったんできてしまうと自然に治ることはなく、完治のためには、手術が必要となります。
痔瘻の手術の術式には、以下の方法があります。
- 瘻管開放術(lay-open法)
- シートン法(Seton法)
- 括約筋温存術
- その他
どの術式を選ぶかは、痔瘻の状況により、根治性と肛門機能の維持の両方を総合的に評価して決定されます。
基本的に痔瘻の手術は腰椎麻酔が必要となりますので、本院の「西新井大腸肛門科」での入院・手術をご案内いたします。
また、複雑な痔瘻を長年放置すると、まれではありますが、炎症を背景に癌(痔瘻がん)が発生することがありますので、注意が必要です。
痔瘻・肛門周囲膿瘍の予防
痔瘻・肛門周囲膿瘍は、肛門腺に細菌が侵入し感染・化膿することで発症します。
下痢の場合、肛門陰窩から便が入り、肛門腺への細菌感染を起こしやすくなります。実際に痔瘻・肛門周囲膿瘍になる方は、下痢の方が多いです。日頃下痢気味の方は、下痢にならないように便通コントロールをすることで、痔瘻・肛門周囲膿瘍になりにくくなります。
また、痔瘻の原因として裂肛(切れ痔)からの痔瘻もあります。切れ痔は便秘気味で、便が硬くいきんで排便をするような状況だと起こりやすいです。
極端な下痢や便秘にならないように日頃の排便コントロールをすることが、痔瘻・肛門周囲膿瘍の予防につながります。
草加西口大腸肛門クリニックでの【痔瘻・肛門周囲膿瘍】の診療

当院には痔瘻や肛門周囲膿瘍の方も多く来院されます。
「2~3日前からおしりが腫れて痛い」
「1年くらい前から、肛門のそばから膿が出ている」
「以前に他の病院で痔瘻と診断されて、今どうなっているか心配」
など、肛門周囲膿瘍で急な処置(切開排膿)が必要な方から、すでに痔瘻の状態になっていて、腫れたり膿が出たりを繰り返している方など様々です。
肛門周囲膿瘍の場合は、直腸指診、肛門鏡、肛門エコーで切開排膿が必要な状態かどうかを評価し、必要があれば局所麻酔をして、膿を出す処置(切開排膿)を行います。
処置は外来で対応可能なことが多いですが、深い場所に膿がたまっている場合などは、本院である、「西新井大腸肛門科」での短期入院・治療をご案内することもあります。
痔瘻の場合は、現状の痔瘻がどのような状況かを直腸指診、肛門鏡、肛門エコーで評価し、手術について説明をします。
痔瘻は、いったんできてしまうと自然には治らないため、根治を目指すには手術が必要となります。頻繁に腫れたり膿が出てつらい場合は、早めに手術をご案内いたします。
逆に、症状が軽く、日常生活に大きな支障がない場合には、外来で経過をみながら、必要なタイミングで治療方針を決めていきます。
手術が必要と判断された場合には、本院「西新井大腸肛門科」での入院手術をご案内します。
また、長年放置した痔瘻は、ごくまれに「痔瘻がん」と呼ばれるがんの原因になることもあるため、「最近ずっと放っておいた」という方も、ぜひ一度現在の状態を確認しておきましょう。
おしりのトラブルは人に話しにくく、受診をためらう方も多いですが、早めの診断と治療が将来の安心にもつながります。少しでも気になる症状があれば、お気軽に当院へご相談ください。