ピロリ菌除菌
目次
ピロリ菌とは

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の中にすみつく細菌で、らせん状の形をしており、強酸性の胃の中でも生きられる珍しい特徴を持っています。
多くは乳幼児期に家庭内感染によって体内に取り込まれ、一度感染すると自然に消えることはほとんどありません。
1983年に発見されて以来、ピロリ菌はさまざまな胃の病気との関係が明らかになり、現在では世界的にもその除菌治療が推奨されています。
日本におけるピロリ菌感染の状況
かつて日本では、成人の半数以上がピロリ菌に感染しているとされていましたが、近年では感染率が年々低下しています。
特に上下水道の整備や衛生環境の改善により、若年層での感染は大きく減少しています。
年代別でみると、70歳以上では感染率が60%にも達しますが、20代では10%以下、中学生では5%前後という報告もあります。
ピロリ菌は主に乳幼児期に感染し、多くは家庭内(とくに母子間)での経口感染と考えられています。成人間での新規感染はほとんどなく、一度除菌に成功すれば再感染のリスクは非常に低いとされています。
このような背景から、日本では若いうちに感染を確認し、早期に除菌を行う「test and treat(検査して治療)」という戦略が注目されています。
すでに一部自治体では中学生を対象に検査・除菌を行う取り組みも始まっており、将来的な胃がん予防への貢献が期待されています。
ピロリ菌がいるとどうなるの?
ピロリ菌は、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、以下のような疾患の原因になります。
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃MALTリンパ腫
- 機能性ディスペプシア
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 鉄欠乏性貧血
中でも最も注目されているのが「胃がん」との関連です。
日本における胃がんの大部分(90%以上)は、ピロリ菌感染が関与しているとされており、ピロリ菌は国際がん研究機関によって「確実な発がん因子」に分類されています。
ピロリ菌感染者の胃がんリスクは、未感染者に比べて約5〜10倍高いと報告されています。
ある研究では、10年間での胃がん発症率は、
- ピロリ菌感染者(ピロリ菌未除菌)で2.9%
- ピロリ菌未感染者では0%
という明らかな差が見られました。
さらに、除菌が遅れるほど胃の粘膜が萎縮・腸上皮化生といった前がん病変へ進行しやすくなり、発がんリスクが増加します。
また、ピロリ菌を早期に除菌することで胃がんリスクを約30〜50%、症例によっては最大で70%以上低下させることができると報告されています。
このように、ピロリ菌の有無は胃がんのリスクを大きく左右するため、「胃がんの予防=ピロリ菌の早期発見と除菌」と言っても過言ではありません。
ピロリ菌の検査と診断
ピロリ菌に感染しているかどうかを調べるには、いくつかの検査方法があります。
検査は大きく分けて、内視鏡を使う方法と内視鏡を使わない方法の2種類です。
胃内視鏡を使う方法
内視鏡検査と同時に行う検査としては、胃の粘膜を採取して菌の有無を顕微鏡調べる「迅速ウレアーゼ試験」や「組織検査」、または「培養検査」があります。
内視鏡で胃炎の所見を確認しながらピロリ菌の検査も行えます。
現在保険診療では除菌前に胃内視鏡検査が推奨されています。
胃内視鏡を使わない方法
内視鏡を使わない体への負担が少ない検査としては、「尿素呼気試験(UBT)」「便中抗原検査」「血清抗体検査」などがあります。
なかでも尿素呼気試験は、精度が高く除菌判定にも使われる信頼性の高い方法です。
近年では、若年者を対象に尿や便の検査を利用して、感染の有無をスクリーニングする自治体の取り組みも増えています。
主なピロリ菌の検査法
迅速ウレアーゼ試験
内視鏡で採った胃粘膜を試薬につけ、ピロリ菌の持つウレアーゼ活性を利用して判定します。
組織検査(病理組織診)
内視鏡で採取した胃の粘膜を顕微鏡で観察し、菌の存在を確認します。
培養検査
ピロリ菌を実際に培養して検出する方法。
薬剤の感受性も調べられるが、実施できる施設は限られます。
血清抗体検査
血液中のピロリ菌に対する抗体を調べる方法。
過去の感染も検出されるが、除菌後の判定には適しません。
尿素呼気試験
特殊な薬を飲んで息を吐くだけの簡便な検査。
除菌判定にも用いられ、感度・特異度ともに非常に高いです。
便中抗原検査
便の中に含まれるピロリ菌の抗原を検出する方法。
体への負担はなく、特に小児や若年者のスクリーニングに適しています。
ピロリ菌の除菌について
除菌治療の流れ
- 内視鏡検査で胃炎の確認
- ピロリ菌感染の検査(尿素呼気試験、便中抗原、血清抗体など)
- 感染が確認されたら除菌治療へ
除菌治療の内容
ピロリ菌の除菌治療は、胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質を組み合わせて、1週間服用する「3剤併用療法」が基本です。
治療は段階的に行われ、一次除菌 → 二次除菌 → 三次除菌(保険適応外)という流れになります。
一次除菌の成功率は、近年のクラリスロマイシンに対する耐性菌の増加により、やや低下傾向にあります。
ボノプラザン(カリウムイオン競合型酸分泌抑制薬:P-CAB)を用いた場合、成功率はPPIよりやや高いとされています。
二次除菌では、一次除菌で使われたクラリスロマイシンの代わりに、メトロニダゾールを用いることで耐性菌に対応します。
除菌判定は一次除菌も二次除菌も、治療終了4週間以上経過後に、尿素呼気試験(UBT)などで行います。
三次除菌(保険適用外・自費診療)
一次・二次除菌でピロリ菌が除菌できなかった場合に行われます。
保険適応外のため、自費診療となります。
使う薬剤は除菌治療が行われる施設によって異なります。
主なピロリ菌の検査法
ピロリ菌の除菌治療における、代表的な副作用とおおよその発生頻度は以下の通りです。
| 副作用 | 発生頻度 | 説明 |
|---|---|---|
| 下痢・軟便 | 約10〜15% | 最も頻度が高い副作用。 腸内細菌のバランスが崩れることが原因で、通常は軽症で自然に軽快する。 |
| 腹痛・腹部不快感 | 約5〜10% | 消化管への刺激や腸内環境の変化による。 |
| 味覚異常 (苦味・金属様) |
約3〜5% | クラリスロマイシンによるもので、内服中の一時的なものが多い。 |
| 吐き気・食欲不振 | 約3〜7% | 胃腸の刺激によるもので、まれに内服継続が困難な場合もあり。 |
| 発疹・かゆみ (軽度アレルギー) |
約1〜3% | 抗菌薬による薬疹。多くは軽症だが、悪化する場合は内服中止が必要。 |
| 頭痛・倦怠感 | 約1〜2% | 抗菌薬やPPIの影響でみられることがある。 |
| 偽膜性大腸炎 | 0.1%未満 | まれだが、重篤な下痢・腹痛・発熱が続く場合は精査が必要。 |
| 重篤な アレルギー反応 (全身発疹、 呼吸困難など) |
0.01〜0.1%未満 | まれだが、過去に抗菌薬アレルギーがある人は注意が必要。 |
副作用の多くは軽度かつ一時的であり、服薬中止となるケースは比較的少数です。
しかし、服用中に重篤なアレルギー反応など(発熱、全身発疹、呼吸困難など)が出た場合は、内服を中止して、速やかに医師へ相談しましょう。
ピロリ菌除菌後の経過観察について
除菌判定
除菌後は、最低でも4週間以上空けてから尿素呼気試験を行い、除菌が成功しているかどうかを確認します。
一次除菌ができていない場合は、二次除菌を行います。
胃粘膜の回復と内視鏡による経過観察
ピロリ菌の除菌に成功すると、胃の粘膜は次第に回復していきますが、そのスピードや程度には個人差があります。
- 胃粘膜の炎症の改善
- 胃の萎縮の改善(部位によって半年〜数年)
- 腸上皮化生の進展抑制(完全に戻るとは限らない)
ただし、除菌してもすでに高度な胃の萎縮や腸上皮化生がある場合は、胃がんリスクがゼロにはなりません。
そのため、除菌後も定期的な内視鏡検査による経過観察が重要です。
草加西口大腸肛門クリニックでのピロリ菌除菌の診療
当院にはピロリ菌除菌希望で来院される方や、当院で胃内視鏡検査を行いピロリ菌感染の診断で、除菌をご案内する方もいらっしゃいます。
ピロリ菌除菌は、保険適応である1次除菌、2次除菌で多くの方が除菌できます。
早期に除菌をすることにより、将来の胃がんのリスクを大幅に減らすことができるため、ご家族に胃がんの方がいる場合や、ピロリ菌陽性で除菌した方がいる場合は、胃内視鏡検査とともにピロリ菌の検査を受けることをお勧めいたします。
除菌は早いほど効果的で、若年で除菌した場合、未感染者とほぼ同等レベルまで胃がんのリスクが低下するという研究報告もありますので、ピロリ菌の早期発見・早期除菌が重要となります。
ピロリ菌除菌は、胃炎や胃潰瘍、胃がんなど多くの疾患を予防する「未来への投資」といえる治療です。
健康診断などでピロリ菌感染が指摘された方、まだ検査をしていないけれど「自分はピロリ菌は大丈夫かな?」と不安な方は、ぜひ一度クリニックにご相談ください。